うつ病とは、どんな病気?
うつ病は、気持ちが「うつ」になるだけではありません。気持ちも、頭も、体も、全身の調子が悪くなる病気です。
体にたくわえられているエネルギーがひどく低下し、体全体が疲れきった状態です。普通の疲れであれば、一晩熟睡したり、週末しっかり休息を取れば、回復します。
うつ病の場合は、仕事が忙しかったり、心のストレスが大きかったり、不眠になったり、食欲がなくなったり、いろいろな理由から、うまく疲労が回復できなくなります。
心や体の疲労が徐々に、蓄積していって、ついに自然回復ができなくなると、うつ病になります。
うつ病は、「怠け」ではなく、きちんとした病気なのです。
休養を取り、適切な治療を受ければ、必ず治る病気なのです。
症状は?
脳を初めとした全身の疲労が原因ですから、いろいろな症状がでます。
眠れない。特に、夜中に何度も目が覚める。朝早く目が覚めて、その後ぐっすり眠れない。
食欲が落ちた。食べ物がおいしくない。体重が落ちた。
物忘れが多くなった。集中力が続かない。判断力が落ちた。仕事でミスが多くなった。
朝から元気がない。仕事に行きたくない。いろいろな事がおっくうだ。
気持ちが落ち込む。マイナス思考になってしまう。
いつも不安やいらいらがあって、気持ちが落ち着かない。
体がだるい。体に力が入らない。めまいがしたり、ふわふわとして、しっかり歩けない。
頭痛がひどい。動悸がしたり、息苦しくなったり、冷や汗をかいたりする。
心配になって、内科や、脳外科、耳鼻科を受診して、検査をしたが、異常無しと言われた。
これらの症状のいくつかが1ヶ月続いたら、ぜひ受診してください。
ほかの病気と同じように、早期発見、早期治療が、早期回復につながります。
手遅れにならないために
これらの症状の半分くらいが当てはまれば、うつ病の初期と診断して、間違いありません。
この段階で受診していただければ、仕事を休まなくても、普段の生活を続けながら、比較的早期に回復します。
ほとんどの症状が当てはまるようなら、初期を通り越して、風邪でいえば、気管支炎の段階です。
すぐに、受診する必要があります。そして、できることなら短期間でも仕事や家事を休むと、回復が早くなります。
家では、うまく休養できない場合、特に、女性は、自宅療養が難しいので、入院したほうがいいことも多いです。
これらの症状が長く続くと、いっそ死んでしまいたいくらい、つらい気持ちになって行きます。
死ぬのは怖いけれど、今の状況が続くくらいなら、死んだほうがましだ、と考えるようになるのです。
さらに、どうやって死ぬのがつらくないかと考えたり、死ぬ方法をインターネットで調べたりするようになります。こうなったら、もう、重度の肺炎の段階です。一歩間違えば、命取りになります。
入院して、しっかりと、休養をとる必要があります。
この段階になると、不思議なことに、患者さん自身は、自分はもうどうしようもない状態なのだと思い込み、自分は病気であり治療すれば治るというように考えられず、自分から受診しようと思わないばかりか、家族や周囲の人が受診を勧めても、頑として拒否することが少なくありません。このような場合は、放っておいてはいけません。ご家族の方だけでも、相談にいらしてください。
治療法
「脳をはじめとした全身に、長期間、過剰な疲労がたまり、自然には疲労回復ができなくなった状態」が、うつ病なのですから、薬の力を借りて充分な休養を取ることが治療のポイントです。
最も大切なことは、適切な薬物療法がですが、日常生活上のアドバイスや、もし休職が必要なら、そのタイミングを計ったり、薬物療法以外にも、いろいろな工夫が必要です。家族のかたから、どのように接したらよいのでしょうかと、質問されることがよくあります。そのような相談にお答えすることも、患者さん自身の回復にとって重要なことです。
薬物療法に関して、皆さんに知って頂かなければならない大切なことがあります。
始めて受診する方は、その人に適した薬の種類や量がわかりません。
ほとんどは2、3回で適切な種類や量を決められますが、それまでは、充分な効果が得られないばかりか、予期せぬ副作用が出現することがあります。
早く良くなって欲しいので、最初の2、3回は、毎週いらしていただき、薬の調整を致します。
近年は、副作用の少ない、新しい抗うつ薬がいくつか使われるようになりました。症状の重くない人は、できるだけ、新しい抗うつ薬を使います。
しかし、病状が重い人は、1日も早くつらい症状を軽くしたいので、強い薬を出す必要があります。
しかし、強い薬は、効果も強ければ副作用も強いのです。副作用止めを使いながら、充分に説明をすることを心がけます。
早く症状を軽くしたい気持ちと、副作用を心配する気持ちの間で葛藤しながら、慎重に薬を決めていきます。それでも、副作用は避けられないことも少なくありません。
しかし、副作用には、前もってわかっていれば、我慢できるものもあれば、滅多に現れないけれどすぐに対処しなければならないものもあります。副作用はきちんとした知識があれば、決して、怖くありません。
限られた診療時間では、説明が不十分になることが避けられません。その場合には、まず、このホームページの薬の説明(リンクする)をご覧になってください。
それでも、ご不明な点は、お電話でお問い合わせください。
次に、軽症、中等症、重症の三段階に分けて、治療法を具体的に説明します。
治療法 – 軽症
軽症は、いくつかの症状があって、日常生活や仕事で、ある程度、支障が出ているけれど、なんとか、現状を維持できている段階です。
この場合、疲労を明日に持ち越さないことが必要です。そのためには、日々の睡眠の改善がたいへん効果的です。
うつ病の場合の不眠は、眠りが浅くなります。睡眠時間は取れていても、深く眠れず、朝、すっきりと疲れが取れた感じがしません。睡眠の質が悪くなるのです。
夢、特に、悪夢を見ることも多いです。睡眠中も、脳が休息していない証拠です。
ひどい場合は、一晩中うとうととして、何度も夜中に起きてしまったり、夜中に目が覚めたまま、朝まで眠れないこともあります。
睡眠薬は、眠りの質を高めるので、朝起きたとき、熟睡した感じがします。うつ病のかたは、睡眠薬と一緒に、少量の抗うつ薬を服用すると、さらに熟睡感が得られます。
毎日の睡眠の質を改善し、週末には、数時間余分に睡眠時間を取って、しっかりと脳と身体の休養を取ることが、最も重要です。
睡眠の改善だけで良くなるかたもいますが、実際には、仕事や日常生活に支障が出始めているので、日中の抗うつ薬の服薬が効果的です。早いかたでは、数日から1週間の服用で、少し良い変化を感じ始めます。集中力、意欲、明るい気持ちが、少し出てきたような感じがします。
治療法 – 中等症
中等症は、現状を維持できなくなってきて、日常生活や、仕事の上で、問題が出てきている段階です。
薬物療法は、軽症の場合よりも強い薬が必要になったり、精神安定作用の強い抗うつ薬が必要になります。
この段階では、薬物療法に加えて、充分な休養が必要です。
体や頭が動かないのに、無理矢理、頑張ろうとしないでください。仕事や家事を放り出してください。
自宅療養していても、仕事や家事のことが頭から離れなくては、心や頭の休息にはなりません。
それを防ぐために、精神安定作用の強い抗うつ薬と抗不安薬を使って、頭をぼんやりさせます。
何も考えずに、日中はうとうと、夜はぐっすり眠れる状態が、1、2週間続くと、見違えるように、心と頭がすっきりします。
中途半端な状態で、うつ状態を長引かせることは、早期回復の最大の障害になります。
早めに、思い切って休養を取ることが重要です。
そのためには、家族や職場のかたがたが、うつ病に対する理解を持って頂くことが必要です。
うつ病のつらさは、経験したことのない方には、なかなかわかってもらえませんが、家族や職場の人達に、よく説明し、理解していただくことも、治療者の務めです。
治療法 – 重症
重症は、日常生活や仕事をこれまで通り続けることができなくなって、将来の不安も大きくなり、現在の状況から逃げ出したいくらいつらい、どうして良いかわからず混乱してしまっている、死んでしまいたいくらいつらくなることがあるような場合です。
すぐに、受診してください。
ご家族やご友人と一緒に受診できるならば、皆さんで今後のことを相談していくことがベストです。ひとりで、悩まないでください。
この段階のうつ病のかたは、自分ではうまく判断ができなくなっています。判断力低下は、うつ症状のひとつなので、仕方ないことなのです。そして、現実よりも何倍も悲観的に考えてしまう心理状態に追い込まれています。
ただちに、受診して、専門家の治療とアドバイスを受けてください。重症とは、病気の程度の重さを言うのであって、治りにくさを言うのではありません。
できるだけ早く受診し、適切な治療を受ければ、決して治りにくいものではなく、どんどん良くなって行くのを実感できることでしょう。
治療期間
日本の社会や経済の状態が、複雑になったことを反映して、近年、うつ病にかかる人が急増しています。
うつは「心の風邪」だから、心の状態がいつもとちょっと違うなと思ったら、すぐに、心の専門家に相談しましょう、というような、キャッチフレーズが聞かれることもありますが、専門家から見ると、うつ病は、本当に「心の風邪」だろうかと、少し疑問に感じます。
「風邪」であれば、医者にかかって、薬をもらって、何回か通院すれば、確かにすぐに治ります。
その後は、もう通院を続ける必要はありません。
また、心の症状だけではありません。最初は、むしろ、体の症状から現れる場合のほうが多いようです
(不眠、倦怠感、食欲低下、動悸、頭痛など)。
うつ病は、いろいろな原因があって、その結果、心とからだの両方が疲れきってしまったのですから、適切な治療を受ければ、必ず回復しますが、回復にかかる期間は人それぞれです。
調子を崩してから、はじめて受診するまでの期間が長い人ほど、良くなるまでの期間も長くかかるようです。つらくても耐えてしまう我慢強い人ほど、治りにくいというのは、悲劇としか言いようがありません。
その人が置かれた、生活環境、就業環境にもよります。近年の日本社会は、人間関係においても、仕事の面においても、ますます厳しく、複雑になっており、良くなっても、再びストレスの多い環境に戻ると、後戻りしたり、一進一退の状態になります。
充分良くなった後も、しばらくは、再発しやすい状態にあるので、通院と服薬が必要です。せっかく良くなったのに、自己判断で通院をやめてしまって、再発する人が多いのは、たいへん残念なことです。
回復のプロセス
回復していく過程には、急性期、回復期、安定期の、3段階あります。
急性期は、つらいうつ状態から脱して、「まあまあ」の状態、7、8割の状態に回復する期間です。薬物療法、休養、環境調整が重要です。
回復期は、まあまあ良くなった状態を維持しながら、元の生活環境に徐々に戻っていく期間です。
何回か必ず波があります。例えば、職場復帰する場合、よく「3日、3週間、3か月」と言いますが、確かに、その頃に波が来ることが多く、それを乗り越えて徐々に安定していきます。
もう大きな波が来なくなり、薬を服用していること以外は、全く通常の生活が送れる状態になると、安定期に入ります。6ヶ月程度、充分、安定しているのを確認して、徐々に薬を減らしていきます。完全に回復していれば、薬を減らしても、特に何の変化も起こらず、無理なく、薬が減っていきます。
うつ病になったということは、それだけ、ストレスの多い環境に生活しているわけです。うつ病が治っても、生活環境が、がらりと大きく変わるわけではありません。
このストレスの多い現代社会で、再発を予防し、少しでも快適に暮らしていくために、ごく少量の睡眠薬や抗うつ薬の服用を続ける方も、多くいらっしゃいます。
高血圧や高コレステロール血症など、生活習慣病の薬をもらいに、月に1回、受診するような感じです。
抗うつ薬は、抗ストレス薬だという医者もいるくらいです。うつの薬というより、ストレスを軽減し、生活を豊かにするひとつの手段だと合理的に考えるのは、たいへんよいことだと思います。