原因で対処法がちがう

うつ病になった原因と考えられることは何だと思いますか。
それによって、対処法、回復方法が異なります。
よくある原因をあげると、
■仕事が忙しすぎる
■職場での人間関係
■今の仕事や職場が自分にあっているか
■私生活での人間関係(パートナーとの関係、親子関係など)
などがあります。
はっきりしている場合もありますが、いくつかの原因が複合している場合も多いものです。
人間はひとつのストレスには耐えられる力を持っていても、いくつかのストレスが重なると、コップから水があふれてしまうように、一気に心や体のバランスを崩してしまいます。
例えば、仕事で、長時間勤務で疲労がたまっている上に、上司の理解が小さくて、モチベーションがどんどん下がってしまう。
例えば、仕事でいろいろなストレスがたまっているときに、パートナーとの関係にすれ違いが出てきて、いつも心が休まらない。
原因を理解して、適切な対応方法を見つけることが大切です。
次に、セリエにいらっしゃるかたの中で最も多い、仕事の過労、ストレスによるうつ病を例に挙げます。

仕事のストレス

仕事の忙しさには波があり、時々ものすごく忙しい時や、強いストレスのかかる時がやってきます。その場合は、毎日の十分な睡眠と、休日の休養と、抗うつ薬などの薬物療法で、何とか、忙しいときを乗り切れば、少しずつ元気が戻ってきます。休職せずに、1-3週間の通院で、かなり良くなったとおっしゃってくれるかたが多いです。
しかし、数ヶ月間にわたる長期間の過労、ストレスが蓄積している場合は、薬で何とかしのいで、自然に良くなるのを待つことにも限界があります。仕事のうつ病は、心身の慢性的過労が原因ですから、休職し、原因=仕事から離れることで、何倍も速く良くなります。
休職しにくい場合や休職までの必要性がない場合は、まずは、主治医から言われたと、上司や産業医に相談して、残業制限(残業時間制限や残業禁止)の指示を出してもらうことも出来ることが多いです。

休職のタイミング

今の仕事や職場を辞めたいくらい、気持ちが追い込まれているかたも多くいらっしゃいます。しかし、職場から離れるとは言っても、まずは、退職ではなく、休職が鉄則です。
退職すれば、全てが解決するような思いになるかたが多いのですが、実際には、病気休暇を取ると、いろいろなメリットが受けられます。病気が原因で休職を取ることは、法律で認められた権利です。
うつ病のかたは、休むと皆に迷惑をかけるという責任感の強さのため、休職することをためらうかたも多いですが、会社組織とは皆の助けあい、「お互い様」で成り立っています。
現代のストレス社会は、誰しも、うつ病で休む可能性があるのですから、悪くなる前に、病気休暇をとって、早期の回復を目指しましょう。
無理しながら、能率の落ちた状態で働き続けることは、ご本人にとっても、職場にとってもよくないことなのです。

それでは、休職のタイミングは、いつでしょうか。
■終電ぎりぎりで帰宅し、朝も早く、睡眠時間が取れない。
■仕事のことが頭から離れずに、深夜、ひどい時には明け方まで眠れない。
■朝起きたときが目が覚めても身体が起きられず、非常につらい。
■朝、気力が出ず、吐き気、頭痛など、体調がとにかく悪い。
■以上のため、遅刻や欠勤が増えてきた。
■3-6ヶ月、通院しているが、なかなかよくならない。

以上のサインが、いくつか出てきたら、病気休暇を考えましょう。
仕事の能率はかなり落ちているはずです。本来の能力の半分も出せない状態で、仕事を続けても、ますます自信をなくし、どんどん不安になっていきます。
その日の朝になって、体調が悪いから休ませてくださいと、上司に連絡をすることが何度もあると、本当につらい気持ちになります。
上司や職場も、きちんと休んでしっかり治して、本来の力で仕事をして欲しいのです。気兼ねすることはありません。
専門医に受診して、休職すべきかどうかについて、相談なさってください。

休職の手続き

まず、医者から、休職を勧められたと、上司に相談してみてください。相談しにくい場合は、診断書を持っていったほうがよいでしょう。休職が必要な程度のうつ状態では、病気の症状のため、うまく自分の考えが伝えられなくなっていることも多いので、診断書があれば、気持ちがラクです。
どうしても、職場に行かれなくなってしまっている体や心の状態の時も多々あります。直接、上司と面接して、相談するのがベストですが、職場に行ったり、上司と話すこともつらい状況の際は、電話、メールなどで、上司に連絡し、診断書を郵送する方法も仕方がないと思います。
一般的には、最初は、2ヶ月程度の目安で、休職の診断書を提出します。2ヶ月間の回復程度をみて、休職を延長するか、復帰するか、検討していきます。最終的には、病状の重さに応じて、2-6ヶ月の休職になることが多いです。
しっかり休んで治した方が、職場復帰後がスムーズにいきます。職場は再休職をたいへん心配します。ご本人も、再休職になってしまうと、最初のとき以上に、自信を失ってしまうこともよくあることです。再休職のほうが長くなると一般的に言われているのはこのためです。
まずは、仕事のことが頭から離れるように、ゆっくり休養することを心がけてください。
しかし、うつ状態が重くなると、考えたくないのにもかかわらず、仕事や将来の心配が浮かんできて、頭と心を休ませたくても、ゆっくり休めない状態になります。そのような時は、抗うつ薬などの薬の力を借りることで、心と頭の休養が取れるようになります。

休職にあたって、経済的なことが、心配になると思います。病休期間は、会社から給与の補償をする制度のあるところもあります。そういう会社独自の制度がないところでも、傷病手当金という制度が使えます。病気で長期に休職せざるを得ない場合に、健康保険組合が支給してくれる公的な制度です。
有休は、全て使い切らない方がよいです。復職後には、ときどき体調不良で、休む必要が出ることもあるかもしれません。その時のために、残しておいた方が安心です。

休職したら

休職期間中、どのようにすごせば良いかは、よく質問されることです。
前半と後半、2段階に分けて考えてください。最初は休職期間が決まっていませんので、いつから前半から後半に移るのかは、診察の中で、回復の様子を見ながら、決めていきます。

前半は、とにかく休養です。
最も大切なのは、睡眠です。
うつ病は、脳の過労状態です。その結果、心や体が疲れきっているわけですから、睡眠と休養に心がけてください。
疲労が取れてくると、時々、調子が良い日が出てきます。外出してみようかな、好きなことをしてみたいなと自然に思ったときは、やってみてください。
しかし、やってみると、まだ疲れやすかったり、集中力が続かなかったりするかもしれません。疲れたら、また休んでください。その繰り返しでよいのです。

よく眠る、休む、調子のよいときは、時々、動く。これが、前半の治療方針です。

病状が重いと、脳が疲れているのに、うまく休めなくなってしまい、休職して仕事のストレスから離れたのに、眠りたいのに眠れない、日中、何もする気が起きないのに、嫌なこと、心配なことが頭から離れない、不安、そわそわ、いらいら、落ち着かないという方も多くいらっしゃいます。
そのような時は、うまく抗うつ薬などの薬を使えば、しっかり休めますのでご安心ください。

休職中は、まず休養する、調子の良い時は何か気分転換になることをやってみる。動いてみて疲れたら休む、ということの繰り返しです。
その結果、頭と体の疲れが取れ、心もリフレッシュしていきます。そのような原則を守っていただければ、特別やってはいけないことはありませんが、3点だけ、やってはいけないことがあります。

1.焦らないこと

「急がば回れ」ということわざが、うつ病の回復については、まさに当てはまります。
焦っても空回りするだけですので、かえって不安感が増し、マイナス思考にもなっていきます。
復帰の期限を決めないことも重要です。
診断書では、休職期間の期限を区切って記載することが必要なので、そのように書かざるを得ませんが、休職途中で更に延長することはよくあることなので、診断書の期限は気にしないようにしてください。
経過を見ながら、復帰できる状態に回復したと判断できる状態になったときが、復帰のタイミングのベストの時です。
常に、急がば回れ、焦らない、期限を決めないと、言い聞かせてください。

2.無理をしないこと

うつ病の回復期には、時々調子がよいときが出てきます。もちろん、そのような日には活動することはよいことなのですが、その後、どっと疲れがでたりします。
動いた反動で、疲れがどっと出ても、それは、原因の明確な疲労ですので、数日よく休めば必ずよくなります。
無理をしないこと、やりすぎないこと、疲れたら休むことを心がけてください。

3.生活のリズムを崩さないこと

十分な睡眠が、うつ病にとってなによりの治療法なのですから、7,8時間以上、熟睡できることが重要です。
疲れているときは、もちろん昼寝をすることも良いことです。
しかし、「夕寝」はよくありません。睡眠薬をのんでも、夜眠れなくなることが多く、生活のリズムを崩す原因になります。
夕寝を頻繁にしたりして、昼夜逆転になりそうであれば、睡眠薬等の調整が必要なのでおっしゃってください。

疲れが取れ、調子がよい日が増えてきたら、以前からの趣味を再開してみてはいかがでしょうか。かなり良くなったら、旅行に行くのも良いことだと思います。旅行は、頭も、体力も使うので、体力・集中力を取り戻せますし、回復程度が分かります。

睡眠と休養の段階が終わり、次の段階(休職の後半戦)に進む目安は、心や頭や体の疲労がかなり取れ、動ける日も増えてきて、疲労の回復も早くなり、そして、仕事に復帰するイメージが少しずつ見えてきた頃です。
疲れも十分取れ、元気がなかった時にできなかったことも楽しめるようになったし、家で休んでいるのも退屈になってきた、そろそろ仕事に戻ってもいいかなぁ、くらいまで回復したら、休職の第一段階は成功です。次のステップに進んでいきます。

復職に向けて

休職中の後半戦では、職場復帰に向けて、少しずつ準備をしていきます。
その方によって、仕事のストレスの原因、職場の環境、会社の復職に関する就業規則など、多くの部分が、ケイスバイケイスですので、あくまで一般論として、ご説明いたします。

■仕事に関することをすこしずつ始めてみる
仕事のメールが家のPCに来ているようであれば、メールチェックをしてみたり、親しい同僚に連絡をしてみて、最近の職場の様子を聞いてみたりするところから、始めてみてください。機会が作れれば、昼休みに会って昼食をとったり、飲みに言ってもいいでしょう。
そのような形で、職場との関わりを少しずつ増やしていきます。次第に、職場や仕事のイメージを取り戻していき始めます。もしかしたら、仕事や職場に戻ることに対する不安が出てくることがあるかもしれません。しかし、それは、ほとんどの人にある、普通のことです。少しずつ少しずつ、心や頭を慣らして行ってください。

■生活のリズムと、体力・集中力を取り戻す
休職していると、意外に体力、集中力が落ちています。生活のリズムが崩れがちになることも少なくありません。
日常生活の中で、復職のための具体的な準備を少しずつ始めていきます。最近は、産業医との職場復帰面接で、「通勤練習」、「リハビリ出社」を指示される企業が増えてきています。その前の段階として、自ら、少しずつ始めていくことがよいと思います。

産業医は、出勤に間に合う時間に起きて、午前中からウオーキングや読書ができているかどうかと言う点を、最も重要視します。
この5年で、産業医や人事の方は、復職に際し、非常に厳しくなってきました。安易に復職させて、再休職者が増えているからです。
復職に向けて最も大切なことは、うつ状態が安定することではありません。会社の要求することは、さらに上で、『再休職せずに、業務に耐えるだけの能力が回復しているか』ということです。

当院を開業してちょうど10年です(2015年時点)。これまで、休職せざるを得なくなった、うつ病のかたを大変多く復職させてきました。その経験を活かして、当院では丁寧で詳細なアドバイスしていくことが出来ます。

 復職のためのリハビリ

繰り返しになりますが、会社が復職時に期待するのは『再休職せずに、定時勤務が可能である』状態になっていることです。
そのためには、かならず、復職前に、何らかの形でリハビリを行うことが必要です。

当院では、このリハビリに力を入れています。2ヶ月程度で、産業医が復職の許可を出してくれるまでに、心身の状態を持っていきます。

また、特に大きな企業は、復職前に、「リワーク」に通所するように、義務づけているところがあります(特に再休職の場合)。リワークでは、学校のようなカリキュラムがあって、生活のリズムを整え、集中力や体力の練習をし、人間関係に慣れ、心理学的な勉強を行います。ひとつ難点があって、リワーク施設にもよりますが、申し込みから開始まで1ヶ月程度、開始から卒業まで3~6ヶ月程度かかるところが多いことです。休職期間満了が近づいている場合は、それなりに対応してくれますが、どうしても長い時間がかかるところが多いです。リワークができはじめた頃は、それほど長くは無かったので、再休職者が予想以上に多くて、時間をかけてじっくり行うようになったようです。
リワークが必要またはご希望される場合は、いくつか紹介しているリワーク施設がありますので、ご相談下さい。それぞれ、特徴がありますので、適切なリワーク施設をご紹介致します。

この数年は、復職時の、会社側のルールも整い、短時間勤務が認められる(または義務づけられる)ところが増えてきました。給与が出るところもあれば、扱いとしては休職のままで、傷病手当を使いながらの会社もあり、様々です。このあたりは、しっかり会社の規定で決まっている場合もありますが、主治医の判断を重視してくれる会社もあります。後者の場合、患者さんとよく相談しながら、段階的リハビリ勤務のプランを作成するようにしています。

復職しました

当院では、「復職後の注意事項」という、プリントをお渡しして、ご本人は勿論のこと、上司や人事・産業医にも渡して頂いています。

うつ病による休職者が、世の中でこれだけ多くなったのにもかかわらず、ご本人や会社の理解不足で、3ヶ月以内に再休職になってしまうケースが、少なくないようです。

うつ病の治療は、復職後、ストレスが再びかかっていく時の治療や、医師の助言が、最も重要なのです。

休職で、うつ病が良くなっても、復職すると、少しずつ色々なストレスが肩にのしかかっていきます。
その3ヶ月をどのような心構えで過ごすか、詳細かつポイントを絞って、プリントにまとめてあります。

上司が、復職後の回復過程を知っておくことは、非常に重要なことです。
A4サイズ1枚のプリントですから、簡単に読めます。読んでもらうことで、上司の対応の仕方が少しは(または大いに)理解あるものになったと仰ってくれる患者さんは多いです。

再発を防ぐために

復職して、少しずつ負荷が増えていき、それでも、あまり心身の調子に波が出なくなる時期が必ずやってきます。
人それぞれですが、一般的には6ヶ月程度を、とりあえずの目標にしましょう。
6ヶ月経過して、かなり安定しているようなら、その後、薬をゆっくりと減らして行きます。
私の場合は、抗うつ薬等から減らして行く方針を取っています。
なぜなら、ストレスや疲労をためこまないようにして、うつ状態の再燃を防ぐためには、最も重要なのは睡眠だからです。
最後に、睡眠薬(とそれと同等の薬)を残して、それで様子をみつつ、患者さんと相談の上、徐々に減らして行きます。
この間、睡眠の重要性について実感してもらいます。
必要な時間、熟睡ができていれば、多少忙しくても、ストレスがかかっても、大きく調子を崩したりしません。
そして、相談の上、睡眠薬を完全にやめるか、少しだけ残しておくか、必要な時にだけ飲むか、という3つの選択肢を選んでもらいます。
常に忙しくてストレスの多い職業のかたは、ある程度の睡眠薬を服用し続ける方も少なくないです。
普通程度の忙しさとストレスの方は、完全にやめられるか、時々軽いものを服用するくらいで大丈夫です。

質の良い睡眠の重要性を実感してもらうとともに、今回のうつ病発症の原因について思いをめぐらしてもらいます。
その頃になると、発症当時の本当に嫌な記憶も、冷静に思い起こすことができて、今後の再発予防のために参考になります。
また、1度、「うつ」になると、次回はかなり初期の段階で、このままではまずいなと思うようになりますから、早期発見、早期治療ができて、2回目以降は治りも早いことが多いです。

性格的な要因で、「うつ」を繰り返しやすい方もいらっしゃいます。
そのような場合は、認知行動療法(CBT)をお勧め致します。